2019年9月12日

「20世紀思想としての社会学」2000年の企画書

すでにどこかのブログに出したかもしれませんが、2000年あたりに社会学史のテキストを書くことになって、ざっくり書いた企画書です。社会理論に関する対話の手ががりになればと思ってノートに出しておきます。
企画
社会学史ハンドブック
20世紀思想としての社会学
野村一夫
A5並装(組み方は別紙)
序論
 一段組 46字*27行=1242字 下に空白
本文1項目2ページ標準
 各章とも要点を一文で表記(暗記用)
 著作年譜をつける
 見出し側ページ 25字*23行*2段=1150字 
  これに脚注10字 ただし原著の写真も入れたい 計三段組
  項見出しは三段抜き4行分
 年譜側ページ 25字*27行*2=1350字
  年譜幅は本文9行分、ただし年譜はテーマによって縦幅が変化
 標準テーマの本文(小見出しを含む)25字*(23+23+18+27行)=25*91=2275字(5.68枚)
 全42項目→2275*42/400=239枚
コラム1項目1ページ標準
 テーマ史コラム(13)
 系譜研究(受容史と影響史)(7)
 名著ピックアップ(7)
 計27プラスαで30
本文とコラム
 2*42+30=114ページ
付物(参考文献、人名索引、事項索引)
序論
■二〇世紀思想としての社会学
 一九九九年、縁あって「社会学史」の講義を担当したさい、まず困ったのは、社会学史をバランスよく網羅したコンパクトな通史がないことだった。もちろん、すぐれた解説はたくさんある。しかし「社会学史」という科目は通常、一年か二年に設定されているものである。右も左もわからない学生には、いささか高度すぎると感じるものが多かった。しかも、一ダースもの研究者によって思い思いに書かれた章がただ並べてあるテキストでは学生が混乱してしまう。むしろ、ステレオタイプ(型にはまった表現)な説明が整然と整理されているほうが、導入としては都合がよいし、試験のさいには丸暗記しなければならないという、およそ非社会学的な条件の下では、そのほうがかえって学生の負担が少なくてすむのである。初学者はステレオタイプから入るべきであり、そののちにステレオタイプが見逃しているものや、深層にある理論的含意を吟味する段階に踏み入るのが自然である。そのかわり、ひとたび興味をもった学説や古典的巨匠があれば、原典にあたり研究書にふれてほしいと思うので、(著者自身の参考書をふくめて)参考文献をきちんと網羅してほしい。
 つまり、全体を手軽に俯瞰できる通史であること、リソースがきちんと提示されていること、そしてできればひとりで書いたもの、こういう見通しのよいテキストが欲しかった。
 そんなわけで「通史がないのであれば書いてしまえ」と、講義の進行に即して書き上げたのが本書である。つまり、本書は私自身が欲しかったコンパクトな「社会学の通史」であり「リソースブック」である。したがって、本書において私はあくまでも水先案内人に徹している。わかりやすさのためにステレオタイプも辞さないと決めて書いた。というのは、社会学者はステレオタイプを嫌うので、このような教科書を書くさいにも、ついステレオタイプとの距離を表現しようとして、複雑な説明をしてしまうことが多いのである。
 もちろんリスクは承知している。社会学史研究は極度に高度化し、一巨匠・一流派について総括的な著書を発表するのでさえたいへんな労力を要する時代になった。本格的な通史を構成するというのは、ほとんどできそうにないし、最新の学説研究の成果を盛り込むことに関しても禁欲的にならざるをえない。したがって本書はオリジナリティや斬新さを競うものではない。専門家の眼を過剰に意識することなく、あくまでも読者に向かって語りたいと思う。創意工夫はむしろエディターシップとして発揮したつもりである。
 他方、社会学史は公務員試験などで出題対象となることが多い。そういう目的で(やむなく)社会学史の勉強をする人も多いように思う。しかし、試験対策用に刊行された参考書の類を読むと、社会学者としてかなり問題を感じるものが多い。勉強することで読者はきっと混乱するにちがいない。これでは社会学が誤解されてしまう。そこで、本書では、そういう人たちに少しでも系統的に社会学史を勉強していただけるよう、公務員試験に出題されることの多い項目をきちんとカバーするように配慮した。たとえばギディングスの社会学(ギデンズではないのでご注意を)など、今日の社会学ではほとんど問題にされないようなものも、きちんと位置づけて解説した。
 以上が本書執筆の動機である。
 しかしながら、このような一書を企画するにさいして、それなりの志がないわけではない。それは、社会学の歴史を俯瞰することによって、社会学を二〇世紀特有の学問運動すなわち「二〇世紀思想」として総括的に理解することである。
 手短に言うと、私の作業仮説は次のようなものである。
 社会学は、自然科学のインパクトによって生じた社会科学のさまざまな試みの中から芽生え、一世紀前の「世紀の転換期」にディシプリンとして自立した。そのさいの基本思想は、きわめて二〇世紀的なもので、それが他の学問に対する大きな特徴になってきた。しかし、それが二〇世紀的であるがゆえに、今世紀を通じてしだいに他の諸学との離合集散が進み、脱領域的な性格を強く帯びるにいたった。今日では、社会学はもはや孤立したディシプリンではなく、脱領域的な社会文化研究のひとつのインターフェイスにすぎないと考えたほうが適切な研究状況になっている。
 社会学とは二〇世紀的な現象だったのであり、二一世紀においては過去形で語られる学問運動といえるのではないか。もちろん、この傾向は「諸学の社会学化」と見なすことも可能である。政治学も経済学も文学理論も言語学も、そして生物学や免疫学でさえもが、かつては社会学の独壇場と見なされていた問題領域について立ち入った議論を展開している。これはまぎれのない事実である。逆にいうと、社会学にはまだまだ展開可能な理論的萌芽がたくさんあるのだ。しかし、二一世紀においては脱領域的社会文化研究の有力な養分として理解するほうが現実的ではないかというのが私の見解である。
 すでに社会学自身は一歩先に二一世紀的な学問潮流のただなかに踏み出している。それは社会学解体の道でもあるが、同時に、ディシプリンをもっていなければ途方にくれてしまうような茫漠とした二一世紀の知的状況に対してナヴィゲート的意義をもつ、一種のベースキャンプとして存在感を増すにちがいない。今日、社会学史を学ぶ意義はここにあると感じるのである。社会学的知識在庫の総点検をするいい時期だと思う。
 そういう意味で、本書は、私自身の社会学への愛着の表現でもあり、同時に社会学への惜別の表現でもある。しかし、それを読者に押し付ける気はさらさらない。社会学的知識在庫の総点検をすることによって、とにもかくにも読者自身の知的世界構築の一助になれれば本望である。
■本書の構成
 まず社会学史全体を五段階に整理した。このうちひとつが「前史」であり、もうひとつがすでに始まっている新段階の「前史」である。「本史」は三段階に分けている。
(1)一九世紀社会理論(一八九〇年ごろまでの社会学前史)
(2)二〇世紀的社会理論の誕生(一八九〇年代から一九二〇年代まで)
(3)三体制対立時代の社会学(一九三〇年代から一九五〇年代まで)
(4)対抗理論の時代(一九六〇年代から一九八〇年代まで)
(5)脱領域時代の社会理論(一九九〇年代以降の二一世紀思想前史)
 社会学の起源をサンシモンやコントやモンテスキューなどに求める伝統的な解釈に対して、この区分はもっと近いところに社会学の直接的起源を主張することになるが、これは社会学を二〇世紀思想として整理するという本書の基本コンセプトに基づく処置である。社会学史全体の位置づけ作業にこそ本書の「志」があるので、伝統的・従来的な社会学史の構成とは異なるユニークな仕様になっている。
 それに対して本文はオーソドックスな社会学者列伝形式をとっている。「マルクスとエンゲルス」と「ウェーバー」を除いて、一項目を見開き二ページに収めた。ごくかんたんに人物像と人生を著作年譜とともに提示して、そののちに社会学理論を論点別に解説した。ステレオタイプは辞さないが、硬質な事典的スタイルに陥らないよう、なるべくわかりやすくかみ砕いて説明した。バランスよく俯瞰するためには、大部な記述は控えなければならない。本書では、初学者にとって学びやすいところにしぼって説明を工夫した。また、知識社会学的視点で見ることもたいせつなので、人生上の出来事との関連もつけておいた。あくまでも生身の人間が社会学をおこなうことを忘れてはいけない。著名なフレーズは引用するようにして一種の社会学名言集をかねるように心がけた。必要に応じて注(一口コメント)を欄外に設けた。
 その上でさらに詳しく学びたい人のためにリソースリスト(参考文献)を用意した。けっして網羅的なものではないが、ここから代表的な研究書と研究者を把握してほしい。そこから始めればオーソドックスな理解に達するはずである。
 この列伝形式は主として社会理論に着目して項目が選ばれているが、社会学史は社会理論だけから構成されるわけではない。そもそも社会学史には三つの歴史が交錯している。
(1)社会理論の系譜??「社会とは何か、社会学とは何か」についての議論
(2)方法論の歴史??「いかにして社会現象に迫るか」についての議論
(3)テーマ史??「何を研究すべきか」についての議論
 このうち(2)と(3)については特定の巨匠だけを解説するのではうまく行かない。潮流として把握する必要がある。社会調査史もふくめて、テーマ史や系譜研究のページを設定した。これらも当然、社会学史の一部であるからだ。
 なお、解説テーマの選択や論点の切り出しについては、社会学理論史に関するジョージ・リッツァーの一連のテキストを模範例として参照した。
George Ritzer, Classical Sociological Theory, Second Edition, McGraw-Hill, 1996.
George Ritzer, Modern Sociological Theory, Fourth Edition, McGraw-Hill, 1996.
George Ritzer, Postmodern Social Theory, McGraw-Hill, 1997.
George Ritzer, Sociological Theory, Fourth Edition, McGraw-Hill, 1996.
 その他、社会学史全般の参考文献は巻末に解題つきでリストアップしておいた。翻訳がなく、いちいち原典にあたれない場合は、これらの文献を比較・参照して論点を整理した。
■社会学史の読み方
 はじめにお断りしておくが、社会学に本格的に取り組もうという読者は、けっして本書だけで満足してはいけない。本書を手がかりに、さらに本格的な勉強に入っていただきたい。そこで、社会学史を学ぶさいの基本的方法について、かんたんにまとめておこう。
 まずしなければならないことは、個々の社会学研究を著者の意図にしたがって読むことである。とくに古典とされた作品には、巷間伝えられているような論点以外の豊富なエッセンスがふくまれているものである。ある特定の部分だけを取り出して議論することからはしばしば落ちこぼれる、このようなところにも留意して取り組むことが必要である。古典に直接当たる意義はここにある。
 しかし、それは同時に作品の外側からも理解されなければならない。ある古典的作品はそれ自体、完結した作品世界をもっているが、同時に外部に開かれたものでもある。
 第一に作者の思想形成過程に位置づけること。それは研究者の個人史に即して理解されなければならない。また、著者の死後に編集されたものなど、複雑な経緯をへて公刊された作品については、作品の成立史に即して読む必要もある。たとえばマックス・ウェーバーの有名な「社会学の基礎概念」を含む『経済と社会』は、未刊草稿を編集したものであるので編集者の解釈が濃厚に反映しているのだが、その意図がしばしばウェーバー自身の意図と混同されてきたことが、最近の研究では大きな問題になってきた。
 第二に、他の競合研究との関連を見ること。たいていの古典的著作は、批判すべき研究というものがあって、それらに対する知的反応としての側面をもつものである。「そうではなくて、こうなのだ」という文脈をつかまなければ、なぜその著者がある特定の論点を強調するのかが理解できないことがある。たとえばジンメルの形式社会学はペダンチックな分類学として考案されたものではなく、百科全書的な総合社会学に対する批判として構想されたものであることが重要なのだ。
 第三に、時代状況との関連を考慮すること。社会学はその時代状況に対する知的反応でもある。たとえ書斎にこもってばかりいる社会学者といえども、その時代を意識しない社会学者はいない。社会的背景や個人的事情を考慮した、いわゆる知識社会学的研究が必要である。
 さらに、社会学者の仕事は公刊されたのちにも歴史をもつ。誤用や転用もそれ自体が社会学史の一部である。理解されない研究や忘れ去られた研究がのちに評価されることも多い。そうした再評価もまた社会学史の一部である。受容史・影響史・解釈史といった側面にも注意しなければならない。
 したがって、たとえばマックス・ウェーバーを理解するには、その人生の絶頂期における挫折の意味を理解し、ニーチェの影響を考慮しつつ、非合理的なるものと合理的なるものとの緊張関係において著作を読むことで、のちに有名になった官僚制概念とカリスマ概念の含蓄ある関係も理解できるのである。そして、なぜかれが無視され誤読されながらもしだいに評価を高めていったのかも実感できるはずである。社会学史の研究とは通常このような作業なのである。
 しかも、さらに強調しておかなければならないのは、巨匠の歴史と研究史とは必ずしも一致しないということである。とくに実証研究においては、ウェーバー級の巨匠が不在でありながら一大潮流をなした研究系譜がいくつも存在する。頂上から展望することは重要であるが、頂上を縦走するだけでは山脈全体を理解したことにならないのだ。
 以上のことを踏まえつつ、では、社会学という学問の歴史をたどることにしよう。
第1部 一九世紀社会理論(社会学前史)
■一九世紀社会科学
自然科学の衝撃と社会の産業化
ウォーラーステイン
社会学の起源諸説
ヴィーコ説、モンテスキュー説、イギリス経験論説、医学説、社会統計学説
■総合社会学
サンシモンとコント
スペンサーと社会進化論
■マルクスとエンゲルス×2
第2部 二〇世紀的社会理論の誕生
■世紀の転換期の社会学(ヨーロッパとアメリカ)
●ヨーロッパ
●アメリカ
■デュルケムとデュルケム学派
■ジンメル
■ウェーバー×4
■シカゴ学派と社会心理学
■シカゴ学派と都市社会学
第3部 三体制対立時代の社会学
■フランクフルト学派と亡命知識人
ブハーリンの粛清
 一九三三年のヒトラー政権が生まれた時点から、
冷戦時代
社会学が存在拘束性を
隷属と反発
■マンハイム
■ルカーチと西欧マルクス主義
■ラザースフェルトと社会調査
■パーソンズ
■マートン
■機能主義への収斂
第4部 対抗理論の時代(外部の再発見と社会学の拡張)
■反省社会学
■シンボリック相互作用論
■交換理論
■闘争理論
■現象学的社会学
■エスノメソドロジー
■ハーバーマス
■ルーマン
■フェミニズム
■レイベリング理論
第5部 脱領域時代の社会理論
■冷戦以後の地球社会と社会科学の変貌
■歴史社会学と社会史
■世界社会学と国際社会学
■ギデンズ
■ブルデュー
■社会構築主義
■言説分析
■カルチュラル・スタディーズ
■合理的選択理論と数理社会学
■パラダイム統合あるいは社会学の解体
 いったい何が「二〇世紀的」だったのか。私は次の三点にあると考える。
 第一に、非実体論・過程論的発想。相互作用論。
 第二に、知識社会学的発想。メタ理論的自省。理論が入れ子構造を持つ。
 第三に、脱領域性。二〇世紀には社会学固有の特徴(困難?)と見なされていた脱領域性が、二一世紀には通常になる。
テーマ史コラム(本文に繰り込み)
■資本主義の歴史
■社会主義の歴史
■ファシズムの歴史
■西欧中心主義
■男性中心主義
■音楽社会学
■消費社会論
■宗教社会学
■マス・メディアの影響
■教育社会学
■環境問題
■社会調査法
■フィールドワーク
■挫折の社会学
■医療社会学
系譜研究(受容史と影響史)(本文に繰り込み)
■マルクス主義の系譜
■実証研究の系譜
■解釈主義の系譜
■ミクロ社会学の系譜
■文化論の系譜
■権力論の系譜
■社会問題論の系譜
名著ピックアップ(本文に繰り込み)
■テンニース『ゲマインシャフトとゲゼルシャフト』
■モース『贈与論』
■ウェブレン『有閑階級の理論』
■オルテガ『大衆の反逆』
■パレート『エリートの周流』
■リースマン『孤独な群集』
■ミルズ『社会学的想像力』
社会学史全般の参考文献
■社会学史の概説書(日本)
●那須壽編『クロニクル社会学??人と理論の魅力を語る』(有斐閣アルマ1997年)。
 17の社会学者と社会学者集団ごとに解説した入門書。とくに社会学史全体としては主張せず、個々の理論的魅力に記述をしぼっている。解説は目配りの利いたもので、どれも一級。「コールマンと合理的選択理論」が入っているあたりが日本のものではユニーク。「ゼミナール」と「読書案内」も便利。
●新睦人・大村英昭・宝月誠・中野正大・中野秀一郎『社会学のあゆみ』(有斐閣新書1979年)。新睦人・中野秀一郎編『社会学のあゆみパートII??新しい社会学の展開』(有斐閣新書1984年)。
 この二冊は教科書に採用されることの多い定番テキスト。今となっては少し古い。
●中久郎編『社会学の基礎理論』(世界思想社1987年)。中久郎編『機能主義の社会理論??パーソンズ理論とその展開』(世界思想社1986年)。中久郎編『現代社会の諸理論』(世界思想社1990年)。
 この三冊で「社会学の系譜」というひとつのシリーズになっている。少し詳しく社会学史を学ぶときの定番概説書。
●富永健一『現代の社会科学者??現代社会科学における実証主義と理念主義』(講談社学術文庫1993年)
 社会学史ではなく社会科学史。社会学を社会学史の文脈で捉え返すときには必見。著者のユニークさは実証主義と理念主義の二大潮流において整理するところで、その意図のひとつが理念主義批判にあるため、オピニオン性の高い論争的な学説史になっている。
●新明正道・鈴木幸壽監修『現代社会学のエッセンス??社会学理論の歴史と展開[改訂版]』(ぺりかん社1996年)。
 初版は1972年刊という「なつかしい」テキストが最近、改訂版になった。27人の巨匠の学説解説の形式になっている古式ゆかしい社会学史だが、この本のよいところは、高田保馬や松本潤一郎といった往年の日本の社会学者やケーニヒやシェルスキーといったドイツ系社会学者がきちっとフォローされているところである。
■社会学史の概説書(翻訳)
●R・コリンズ、M・マコウスキー『社会の発見』大野雅敏訳(東信堂1987年)。
「社会とは何か」に焦点を定めた社会学通史。ニーチェやフロイトやソレルなどが重視されたユニークさもあるが、一貫した視点で解説されており、学者相互の思想的連関について注意深く言及されている。分担執筆による社会学史概説書にありがちな断片的な説明に終わっていないところがいい。
●ランドル・コリンズ『ランドル・コリンズが語る社会学の歴史』友枝敏雄訳者代表(有斐閣1997年)。
 原題は「社会学の四つの伝統」。(1)紛争理論、(2)功利主義・合理的選択理論、(3)デュルケム理論、(4)ミクロ相互作用論の四伝統について解説されている。いかにもコリンズらしい選択だが、案外このようなユニーク路線で社会学史を見直してみるのもいいかもしれない。「プロローグ??社会科学の誕生」から始めているところや「影の社会学者」としてエンゲルスに着目する点などに見識を感じる。「社会学における恋愛市場と結婚市場の発見」とか「アーヴィン・ゴッフマンの逆襲」などもおもしろい。
●ジョセフ・H・アブラハム『社会学思想の系譜』安江孝司・小林修一・樋口祐子訳(法政大学出版局1988年)。
 原典のアンソロジーに付せられた総論部分の翻訳。少し古いものだが、「古代と中世の社会学」から始まる、スケール感のある展望がえられます。20世紀初頭までの「社会学前史」を知るのにいい。
●ウォーラーステイン+グルベンキアン委員会『社会科学をひらく』山田鋭夫訳(藤原書店1996年)。
 社会学史ではなく社会科学史。社会学史は社会科学史の中で理解されなければならない。短いものなので必ず読んでおきたい。
●アラン・スウィンジウッド『社会学思想小史』清野正義・谷口浩司・鈴木隆訳(文理閣1988年)。
 ヴィーコを起点にするユニークな社会学史。マルクス主義を軸に転回するものとして社会学思想を跡付けているが、これはこれで一貫している。
●レイモン・アロン『社会学的思考の流れ(I・II)』北川隆吉・平野秀秋・佐藤守弘・岩城完之・安江孝司・宮島喬・川崎嘉元・帯刀治訳(法政大学出版局1974・1984年)。
 アロンの有名な社会学史講義。モンテスキュー、コント、マルクス、トックヴィル、デュルケム、パレート、ウェーバーの七人の巨匠について、フランス社会学の巨匠がじっくり解説してくれる。
●D・マーチンデール『現代社会学の系譜』新睦人訳者代表(新装版・未来社1974年)。
 2段組600ページの大作。きわめて広い視野の下に「社会学史」の全体像が整理されている貴重な仕事。社会学周辺の研究や、今となってはマイナーな社会学者(たとえばブーグレとかチェーピンとかオッペンハイマーとか)について勉強するのに適している。巨匠の学説を追うだけでは社会学史とは言えないので、そういう意味では逃げも隠れもしない正統派の社会学史。
●George Ritzer, Classical Sociological Theory, Second Edition, McGraw-Hill, 1996. George Ritzer, Modern Sociological Theory, Fourth Edition, McGraw-Hill, 1996. George Ritzer, Postmodern Social Theory, McGraw-Hill, 1997. George Ritzer, Sociological Theory, Fourth Edition, McGraw-Hill, 1996.
 積み上げると10センチぐらいになる。"Sociological Theory" は前三冊の総集編で、また前三冊の冒頭部分にはかなりの重複があるので、オリジナルコンテンツとしては5センチぐらいか。「社会学のメタセオリー化」というコンセプトが軸になっている。これが本書の「導きの糸」である。
■社会学史の再構成をふくむ理論書
 こちらは社会学史の本ではなくオリジナルな理論書。しかし、その理論を導出する手続きとして社会学史の再構成を手段としているものである。かえってこういう著作の方が、社会学の歴史の見方に大きな影響を与えてきた。主張性の高い社会学史として読める。
●タルコット・パーソンズ『社会的行為の構造(全五巻)』稲上毅・厚東洋輔ほか訳(木鐸社1974-1989年)。
 マーシャル、パレート、デュルケム、ウェーバーの四大巨匠の理論の上に主意主義的行為理論を構築した研究。原著は1937年のもの。アメリカ社会学に大きな影響を与えた。とくに、アメリカ社会学へのウェーバー受容はここから始まるといってもいいくらい。
●A・W・グールドナー『社会学の再生を求めて(合本版)』岡田直之ほか訳(新曜社1974-1975年)。
 原題は「西欧社会学の来るべき危機」。邦訳はかれの次の著作のタイトルに近いものになっている。社会学史を機能主義およびその以前と以後のほぼ三つにわけて把握し、その下部構造を論じている。一種の知識社会学的な社会学史。筆者のような七〇年代シラケ世代の社会学フリークにとってバイブル的著作だった。
●ユルゲン・ハーバーマス『コミュニケィション的行為の理論(上・中・下)』河上倫逸ほか訳(未来社1985-1987年)。
 ハーバーマスの主著。著作構成がパーソンズの『社会的行為の構造』に似ているのが意外だった。ウェーバー、フランクフルト学派、ミード、デュルケム、言語理論、パーソンズなどが丹念に説明されている。
●アンソニー・ギデンス『社会理論の現代像??デュルケム、ウェーバー、解釈学、エスノメソドロジー』宮島喬ほか訳(みすず書房1986年)。
 社会学史断章といった趣のある論文集。このころのギデンズの解釈は中庸なところがあるので評価の参考になる。論文集だが読みやすい本。
●アンソニー・ギデンス『社会学の新しい方法規準??理解社会学の共感的批判』松尾精文・藤井達也・小幡正敏訳(而立書房1987年)。
 前半で理解社会学ないし解釈学系の社会学の内容を整理している。ギデンズがオリジナルな社会理論を構築するさいの転換点となった作品。
●アンソニー・ギデンズ『社会理論と現代社会学』藤田弘夫監訳(青木書店1998年)。
 すっかり巨匠になってしまったギデンズの講演やレクチャーなどをもとにした論文集。社会学史全般にわたってフォローしている。「社会とは何か、社会学とは何か」を考える上でとても参考になる。
●今田高俊『自己組織性??社会理論の復活』(創文社1986年)。
 自己組織性を主軸にした自省的機能主義を提唱している研究書だが、既存の行為論系の学説について詳しく論じられている。
●ウォーラーステイン『脱=社会科学??一九世紀パラダイムの限界』本多健吉・高橋章監訳(藤原書店1993年)。
 副題は「19世紀パラダイムの限界」。19世紀パラダイムに抵抗したマルクスと、時空概念を導入して新しい社会科学の可能性を提示したブローデルを中心に、社会科学の歴史的性格が論じられている。21世紀的社会科学を考える上でもっとも重要な著作のひとつ。

読書ノート始めます

現在進行中の研究計画で使用する予定の文献レビューを始めます。読書ノートのようなものになる予定です。できることなら週刊誌に連載するように、ひとまとまりの文献について1週間でメモしていきたい。積ん読している文献を読みながら研究計画における役割を確定していく予定です。レーニンの哲学ノー...