2019年9月12日

社会など存在しない(サッチャー)

サッチャー発言の波紋。2008年8月23日 (土)
社会など存在しない(サッチャー)

 オルブロウ(Albrow 1999=2001:85-86)は、イギリスの元首相マーガレット・サッチャーの「社会など存在しない」という発言が論争を引き起こし、人びとが社会とは何かを考えるようになったと皮肉を述べている。
 ジョン・アーリもまた『社会を超える社会学』(Urry 2000=2006)の最初の章でサッチャー発言を取り上げるが、彼はより厳しくイギリス社会学界は適切に応えきれなかったと厳しく評価している。サッチャーは実在するのは「個々の男性と女性、そしてその家族」だけだとするのであるが、アーリはこの発言はハイエクに由来するとしている。
 池田信夫『ハイエク──知識社会の自由主義』(PHP新書、2008年)によると、1979年にサッチャーが保守党の党首に指名されたとき、ブリーフケースからハイエクの『自由の条件』を取り出し「これがわれわれの信じているものだ」と宣言したとのこと(86)。間宮陽介『ケインズとハイエク──〈自由〉の変容』(ちくま学芸文庫、2006年)によると、ハイエクは1940年代の一連の論文(これらはのちに『科学による反革命』として刊行)において、「社会」「経済組織」「資本主義」「帝国主義」などという概念は疑似概念であるとしているという(58)。
 サッチャーが「社会など存在しない」というとき想起されていたのはハイエクの理論だったのだろう。その意味では軽く一蹴できる話ではないような気がする。
Urry, John, 2000, Sociology beyond Societies: Mobilities for the Twenty-first Century, London and New York: Routledge. ジョン・アーリ『社会を超える社会学──移動・環境・シチズンシップ』吉原直樹監訳, 法政大学出版局, 2006.

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